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【寄稿】VMware がパブリッククラウドにやってくる、SAP基幹システムでの活用策とは

本記事は、JSUGが「いま知りたい!旬なITトレンド」をテーマに発行するメールマガジン「JSUG EXPRESS VOL.3」連動記事です。本記事には2018年2月執筆時点で、初期リリース版扱いの暫定的な内容やロードマップ上にある未出荷の製品に関する情報が含まれています。実際に検討される際には、別途最新の情報収集をお願いします。

第3回のテーマは「クラウド/ハイブリッドクラウド」

2017年8月に米国西部(オレゴン)リージョンでInitial ReleaseとなったVMware Cloud on AWS(以降VMC on AWS)ですが、2017年10月28日には米国東部(バージニア北部)でもAvailableとなり、いよいよ今年は日本を含めたグローバル展開を含めた本格的なリリースが期待されます。

一方では、VMware virtualization on Azureが登場したりと、パブリッククラウドのハイパーバイザーとしてVMwareが台頭してきた今、SAPを含めた基幹システムの世界でもゲームチェンジャーとなりえるソリューションということで、まずは、VMC on AWS に絞って、SAP含めた基幹システム環境での活用の可能性を探ります。

ハイブリッドクラウドって改めて何?

ハイブリッドクラウドとは、クラウドコンピューティングの実現形態の一つで、一般的にはパブリッククラウドとプライベートクラウドを組み合わせたものを指します。また、仮想化システム上で実行されている仮想マシンを、プライベートクラウドとパブリッククラウドをまたいで移行できるような運用形態のことを指したりもします。

SAP稼働の認定取得状況

パブリックな情報としては、昨年10月にVMware社のブログにて、SAP HANAのPoC(Proof of Concept)が実施されたことの発表がありました。

SAP HANA for non-production use with VMware Cloud on AWS

タイトルの通り、非本番環境用途としてのPure HANA,S/4HANA用途の技術検証となっておりますが、下記の通り本番用途については、現在認定取得中となっていました。 

Production workloads are currently in the process being certified with SAP on this platform

ERP6.0等の従来の製品については言及されておりませんが、そもそも枯れた技術ですし、技術的に動かない理由はないかと思いますので、後はビジネスイシュー次第かと推察しています。今後サポートされた場合には、VMwareならではのLegacy OSサポートがあることで、ERP6.0等向けに古いバージョンを長期で運用したいお客様にとっては、新しめのOSのみをサポートするパブリッククラウド(IaaS)と比べて、魅力的な選択枝になりえます。

VMC on AWS リソース前提条件

現時点で公開されている物理サーバのスペックはAWS I3 インスタンス相当、つまり物理36コア(72 vCPU、2 x Intel® Xeon® E5-26xx v4  Broadwell series )、512GBメモリー、15TB SSD(1900 GB NVMe SSD X 8)であり、最低4台~最大32台で1つのクラスター構成が可能です。

メモリー:物理サーバ1台当り512GB搭載

S/4HANA用途では、1台あたり512GBメモリーという容量は、決して大きくありません。開発、検証用途では問題ありませんが、本番環境としては小規模から中の小規模向けと推察しています。とはいえこの辺りはリソースをあてがうだけなので、マーケットのニーズに応じて随時拡張されることが期待されます。なお、複数台のサーバを横に並べたスケールアウト構成も考えられますが、S/4HANA大規模構成においてスケールアップ構成(=単体サーバ内での垂直拡張)が一般的な現状では、選択肢としては厳しいかもしれません。

<参考リンク>

“スケールアウト”と“スケールアップ”の違いは?

SAP S/4HANAにおけるスケールアウト対応における留意点

物理サーバ:1クラスターあたり、最低4台から最大32台までサポート

前項で述べたメモリー容量でカバーできる規模のS/4HANA用途であれば、開発、検証、本番環境全てが3台で収まりますが、VMC on AWSの場合は高可用性(HA)確保のためのリソースを自社で事前に考慮する必要がありますので、そのために最低1台確保するとした場合は計4台となり、最低条件としてはちょうどいい感じです。

AWS EC2の場合は、明示的に待機系のリソースを事前に確保ことなく、標準機能のAuto Recoveryで別サーバから立ち上げられることと比べると、その分コストがかかかります。しかしAuto Recoveryの場合、AWC EC2側で待機用リソースが自社向けに確実に担保されているわけではないので、特にHANAのような大きいインスタンスの場合、汎用的な小さいインスタンスと比べて、必要なときに自社向けにリソースを確保しずらくなることが可能性としてありますので、単純なコスト増ではありません。なお、S/4HANA高可用性(HA)構成としては、AZ障害なども想定して、一般的にHANAデーターベース標準機能のHANA System Replication(HSR)を用いるケースが多いのが現状ですが、今回は説明を割愛します。こちらにあるS/4HANA基本構成が参考になります。)

なお、1つのSoftware-Defined Data Center (SDDC)あたり、最大10クラスター、また1つのお客様に対して2つのSDDCが現状サポートされていますので、最大ホスト数は、32(hosts/cluster)X10 (cluster/SDDC)X2(SDDC)=640台となります。

ディスク:物理サーバ1台あたり専有15TB

物理容量としては、1台にあたり15TB(1900 GB NVMe SSD X 8枚) が搭載されかつ専有することができます。正確には、3.6TBのキャッシュとRawレベルで10.7TBのオールフラッシュディスク構成となり、さらにRAID1,5,6を構成することで、実行容量としては当然下がります。物理接続はサーバのPCI Expressバス直結で、高速なSSD+広帯域+低遅延ということでI/O性能はかなり期待できますので、基幹系のバックエンドシステムだけでなく、VDIやDesktop as a Service(DaaS)と呼ばれる仮想デスクトップ用途とかにも使えそうです。

VMC on AWS 付加機能の魅力

VMware Cloud on AWSサービス概要

多くの情報が既に流れておりますので、詳細の説明は割愛し、基盤の要素技術がわかる全体像の下図をご紹介させて頂きます。

VMware社が目指すビジョン

まずはVMware社が描くビジョンを見てみましょう。下図の通り、「プライベートクラウド」と「パブリッククラウド」双方が共存、つまり「ハイブリッドクラウドの実現」にフォーカスしていることがわかります。

ハイブリッドクラウドを構築する際に肝となるのが、パブリックとプライベートのの繋ぎの部分です。

ちなみに、ここでいうパブリッククラウドの実体ですが、下図の通りAWS以外にも多くのクラウドが明記されています。「一貫したインフラストラクチャ」としてVMwareが位置づけられ、「一貫したオペレーション」については、vCenterに代表されるVMware社の管理製品群がそれに相当します。

VMware Hybrid Cloud Extension

VMware社が掲げるビジョン、すなわちハイブリッド・クラウドを実現するにあたり、幾つかの要素技術をクラウドに実装することになりますが、中でも特徴的なのがクラウドプロバイダが提供するVMware Hybrid Cloud Extensionです。(従来から知られているVMware HCXテクノロジーに相当)本サービスによりオンプレミスのVMware環境とVMwareベースのクラウドをシームレスに接続し、vMotionや仮想ネットワークのオーバーレイ機能、データレプリケーション機能などを用いて、ワークロードのクラウドへの移行をダウンタイムなく実現できる技術です。

今回は、VMware HCXで将来的に提供される予定の「L2延伸」機能を取り上げてみたいと思います。

L2延伸とは

拠点間のEthernetトラフィックをIPにカプセル化することによって、IPをサポートする任意のネットワーク上で動作して、例えば複数のデータセンターやクラウド間を跨がったL2ネットワークの拡張が容易に実現できることを目的とした機能です。本機能により、移行先のサーバにおいて既存と同一ネットワーク、同一IPアドレス、同一ルーティングポリシーを維持することが可能になります。(=IPモビリティの確保)

拠点を跨がるフラットなL2ネットワークを実現

伝統的な方法でL2ネットワークを構成するには、多数のL2スイッチをループに注意しながら階層的な物理構造で接続し、スイッチごとに設定して構成していくことになります。

それに対して、フラットなL2ネットワークでは、ループになるような冗長経路も含むネットワークを1つ作り、その中で2点間の経路などを動的に設定して構成していくことになります。

オンプレミス環境においては、従来よりL2延伸をサポートするネットワーク機器を用いることで実現可能でしたが、パブリッククラウド上にはネットワーク機材は持ち込めませんので、代わりにクラウド上のサービス(VMware Hybrid Cloud Extension)がそれを担います。

執筆時点で本機能のAWS環境向けの提供は、IN Preview*のステイタスです。*In Preview – feature for a subset of customers to test and provide feedback. Not guaranteed to move to available phase”

その他の機能

・オンプレミスとクラウド間の双方向のvMotionを提供
・vSphere 5.5 以上から可能(6.0 へアップグレードの必要なし)
・異なるPSC SSO ドメイン間のvMotion も可能
・ライブとコールドマイグレーション両方を提供
・vSphere Web Client UI から、または、API 経由のvMotionを提供
・レプリケーションベースマイグレーション
・オンラインのまま、クラウドへ⼤きなVM をレプリケーション
・ユーザのタイミングで、オンプレのVMを電源Off。クラウドのVM を電源ONし、スイッチオーバー

・WAN 最適化 De-dup、圧縮、暗号化(Suite-B etc.)

(参考リンク)

VMware CloudがAWSから提供される、ITのプロたちは喜びのダンスを踊る

導入のメリットと活用局面の模索

SAP環境で一般的に期待できそうなメリットについては、以前まとめた記事がありますので、こちらを参照してください。

VMware Cloud on AWSをSAPで使うメリットとは?(弊社BLOG記事)

なお、上記記事執筆後の情報アップデートに伴い、下記の点について補足させて頂きます。

「移行」と「DR」

企業の基幹システムにおいては、データセンター移行に代表される大規模なシステム移行やDRサイト構築を、エンドユーザに極力影響を与えない、具体的にはクライアントPCから接続先が変わったことを気づかせない形で行いたい場合や、大規模なシステムを段階的に移行する際などで採用が検討されるケースが想定されます。

ちなみにSAPのお客様の場合は、移行先は「ホスト名」はそのままで「IPアドレス」のみを変えるパターンが多く、移行後(又はDR発動後)にDNSサーバ上の設定を新しいIPアドレスにて書き換え、しばしDNSキャッシュの浸透を待って接続する方法で解決されているケースが一般的かと思いますので、このあたりは従来の手作業ベースから基盤サービスによる自動化、省力化と、テスト負荷低減がメリットになりそうです。

「ハードウェア保守切れ対応」

オンプレミス環境で複数のVMware環境が大量に存在し、その基盤のハードウェアの購入時期が環境毎に異なるため、ハードウェアの保守切れが五月雨式に起こってしまいうことがあります。結果的に基盤リソースの全体最適化や標準化がうまくできないため、一パブリッククラウドによるオンデマンド環境を取り込むことで、オンプレミス環境を含めた基盤最適化ができます。

「AWS上の最新テクノロジーとの連携」

ワークロード(処理)をオンプレミス、クラウドで使い分けるハイブリッドならではのクラウド活用については、最新テクノロジーを使った魅力的なサービスが、AWS等のパブリッククラウド上に展開されることを考えると、ネットワーク的にそばに自社環境があることで、パフォーマンスや接続親和性等様々な利点が考えられますが、このあたりは将来的な展開を見越してどのように考える化の話かと思います。

(参考)コスト感

VMware Cloud on AWS Pricing Calculatorを利用することで、VMC on AWSの利用コストを算出することができます。

使い方は非常に簡単で、下記の4項目をいれるだけで即座に算出されます。

①リージョン選択(2018年1月執筆時点は、Oregon,Virginiaのみ)

②サブスクリプション選択(時間、1年、3年、複数選択可能)

③物理サーバ台数の入力(最低4台から)

④稼働期間の入力(時、日、月単位)

実際の画面が下記になります。

4台の物理サーバを1年間(365日)稼働させた場合の、物理サーバ1台あたりのクラウド利用料金は下記の通りです。

課金体系定価(ドル建て)定価の単位月額(ドル建て)
概算月額(1$=110円換算)オンデマンド対比
オンデマンド課金(時間)$8.3681/時間・台$6,109¥671,990100%
1年固定$51,987/1年・台$4,332¥476,52070%
3年固定$109,366/3年・台$3,038¥334,18050%

・ Hybrid Loyalty Program や値引きなどは含まれていない定価の表記です。

・上記金額には VMware のソフトウェアおよび のソフトウェアおよび AWSのインフラストクチャ、サポートコストが含まれます。

・回線使用料およびパブリック IP の変更料は含まれていせん。これらにかかるコストはAWSのサービス利用料に準じます。

まとめ

上位アプリの都合を気にせずオンプレミス、パブリッククラウドを双方向でシステムを行き来させることができるため、SAP以外の周辺システム等含めた企業システム全体の移行方式、基盤、運用の標準化が容易に実現可能であり、かつ既存のオンプレミスで培った運用スキルが流用できることから、システムから運用まで含めた自社ITの全体最適化に適したソリューションであることがわかった。

SAP S/4HANA 稼働プラットフォームとして本稼働サポートは2017年10月時点でSAP認定取得中であり、また執筆時点では一定の規模感において、SAP S/4HANA向けに十分検討可能であることがわかった。(ERP6.0等S/4HANA以外の製品の取り扱いについては、今後のUpdateに期待。)