ENEOS株式会社

AWS

再生可能エネルギーなどの最適な運用を目指し IoTとクラウドを用いたエネルギーマネジメントシステム(EMS)を開発

業種
電気・ガス・エネルギー
従業員数
1000人以上

再生可能エネルギーなどの最適な運用を目指し IoTとクラウドを用いたエネルギーマネジメントシステム(EMS)を開発

脱炭素社会の構築に向けて、再生可能エネルギーの導入が進む中、世界屈指の総合エネルギー事業者であるENEOSも次世代型エネルギー事業に取り組んでいます。その一環として、同社の中央技術研究所は、太陽光発電装置、蓄電池、水素製造装置、EV充電器等、さまざまな設備をインターネットに接続し一元的に監視・制御する研究用のエネルギーマネジメントシステム(EMS)を開発しました。このシステムの構築においては、BeeXがゲートウェイ部分の開発に参画。IoTやクラウドを活用することで、各機器から収集されたデータをリアルタイムで可視化する環境が実現しました。

課題
  • 蓄電池等の機器を遠隔から監視・制御し、運転データを一元的に分析できる仕組みが必要
  • 従来の機器ごとのデータ収集では機器が多くなるほど作業効率が低下し、試験のスピードが低下
  • クラウドを活用したIoTシステムの構築に必要な知見が不十分
解決したこと
  • アマゾン ウェブ サービスAWS)を活用したエネルギーマネジメントシステム(EMS)を開発
  • 各機器から収集されたデータを、リアルタイムに監視・制御する環境が実現
  • IoTやAWSに関する知見、アジャイル開発のノウハウを蓄積

複数の機器から集められるデータを統合管理するためクラウドベースのEMSの構築を検討

エネルギーと非鉄金属の両事業領域で、上流から下流にわたるビジネスを広く展開するENEOSグループ。同グループは現在、アジアを代表するエネルギー・素材企業への進化、低炭素・循環型社会への貢献などを目指す「2040年グループ長期ビジョン」の実現に向けて、2022年までの第2次中期経営計画を推進中です。

その事業戦略のひとつに「次世代型エネルギー供給・地域サービス」がありますが、グループの中核企業であるENEOSでは、電力・水素需要、市場価格、設備の特性などに応じて蓄電池や水素製造装置等の設備を最適に運用・制御する、エネルギーマネジメント技術に取り組んでいます。そのねらいについて、中央技術研究所 先進技術研究所 低炭素技術グループ チーフスタッフの原田耕佑氏は「電力の安定供給には常に需給のバランスをとる必要がありますが、発電量の制御が難しい再生可能エネルギーが増えると、需給の調整が難しくなってしまいます。そこで当社は、太陽光発電装置、蓄電池、水素製造装置、EV充電器等を一括で制御するVPP(バーチャルパワープラント・仮想発電所)技術に着目し、研究を進めています」と説明します。

同社は中央技術研究所がある神奈川県の本牧エリアをVPPの実証プラットフォームとして、エリア内に点在する蓄電池、水素製造装置、EV充電器などを制御するシステムを構築し、技術検証を重ねています。先進技術研究所の低炭素技術グループが実証実験を始めたのは2018年ごろのことでしたが、当時は機器がある場所までノートPCを持っていって直付けしたり、USBメモリーを使うなどしてデータを収集したり、機器の制御を行っていました。しかしこのやり方では、機器の数が多くなるほど作業効率が低下し、試験のスピードにも遅れが生じます。「そこで、エリア内の機器を遠隔から制御するとともに、収集したデータを一元的に管理して、研究者が誰でも簡単に分析できる基盤を備えた、研究用のエネルギーマネジメントシステム(EMS)を構築することにしました」(原田氏)

同社は機器からデータを収集・管理する技術として、IoTとクラウドに着目。これを活用することでEMSの実現を目指すことにしました。
「私自身、プログラミングが好きだったこともあり、起案書を書いて上長に提案しました。研究所でのシステム開発はほとんど実績がなかったのですが、新たな知見獲得の機会ともなることから、まずは研究予算の範囲でやってみよう、ということになりました」(原田氏)

ゲートウェイからクラウドまで対応できるBeeXを開発パートナーに指名

ENEOSは、EMSの開発にあたってパートナーを検討。複数の候補の中から、クラウド側アプリケーション全般の開発を別のベンダーに依頼し、BeeXには機器からのデータ収集とフィードバックを司るゲートウェイ側の開発と、クラウド側の開発支援を依頼することにしました。

「当初は大手ベンダーに声をかけたのですが、最初から細かく仕様を決めたり、過度に堅牢性を重視したりといった提案がほとんどでした。しかし、今回のプロジェクトはあくまで研究用のものですので、私たちとしては安定性よりもスピード感や柔軟性を求めていたのです。そこで、小回りの利くベンダーを探したのですが、クラウドやフロントエンドは得意でも、エッジ側、つまりリアルなデバイスとの接続の部分まで対応できるところは見つかりませんでした。仕方がない、自分たちで内製するしかないとあきらめていたところ、元々お付き合いのあったBeeXを上長から紹介されたのです。聞けば『ゲートウェイからクラウドまで何でも対応できます』とのことでしたので、ゲートウェイ側を中心にEMS開発全体の支援も含めてお願いすることにしました」(原田氏)

3社による開発は、2020年9月にスタート。2020年12月には初期バージョンをローンチさせ、開発開始から10カ月後の2021年6月には相当の完成度までもっていくことができ、PJを完了させることができました。EMSのプラットフォームにはAWSを採用、開発手法は2週間ごとに開発・検証を繰り返す、アジャイル方式の一種であるスクラムを採用しました。「コロナ禍ということもあり、開発はオンラインで進められました。チャットやWeb会議で密にコミュニケーションを取り、SharePointで情報を共有しながら進めたことで、おおむねスムーズに進みました」(原田氏)

EMSでは、ゲートウェイ側のデータ収集・制御を実現するための基盤として、AWS IoTとAWS IoT Greengrassを採用しています。クラウド側のアプリケーションはAWS IoTを介してゲートウェイと情報をやりとりし、ゲートウェイ内ではAWS IoT Greengrassがゲートウェイで完結する一部の処理に対応します。ゲートウェイのハードウェアは、安価で汎用性が高いRaspberry Piを採用し、通信にはSORACOM IoT SIMを用いています。クラウド側とゲートウェイ側とで複数コンポーネントが連携し整合性の取れた処理を行うため、共通設定ファイルを中心とした仕組みを開発し、変更管理はコード化してデプロイ作業を自動化。多種多様な機器に対応するため、機器とゲートウェイ間は複数のプロトコルに対応させました。

「接続する機器の種類が多く、それぞれ通信プロトコルや信号の割り当てが異なるため、1機種ごとに多くの開発が必要となります。BeeXのエンジニアの方には、実装に優先順位をつけたり、処理の共通できる部分を共通化したりして、効率よく開発してくれました」(原田氏)



各機器から刻一刻と上がってくるデータをグラフでわかりやすく可視化

「hammock(ハンモック) EMS」の社内呼称でリリースされたEMSは、2021年12月現在、本牧エリアにある機器と、喜入(鹿児島)、大阪、京都のエネルギー基地にある機器、合わせて約20台が、電力スポット価格予測や気象予測などの公開データと接続しています。機器から収集した使用電力、太陽光発電、受電、水素製造、蓄電池などの稼働状況は、専用のダッシュボードに表示。電力需給の推移や再エネ率などが、グラフでわかりやすく可視化されています。
「各機器から刻一刻と上がってくるデータを、リアルタイムに集約する環境を構築できたことが大きな成果です。研究者はJupyter Notebookで数行のpythonコードを実行するだけで、機器からあらゆるデータを取得し、分析を行うことができます。機器の制御においても、例えば昼間の時間帯に太陽光で発電した電力を蓄電池に充電しておき、夜になったら放電するといった制御モデルをpythonの関数として書き、hammock EMSにロードすることで、あらゆる機器をあらゆる方法ですぐに制御してみることができるようになりました。」(原田氏)

hammock EMSの開発は社内からも高く評価されており、他の事業部からも実証実験で使ってみたいといった要望が寄せられています。また、IoTやAWSに関する知見やアジャイル開発のノウハウが蓄積されたことで、現在事業化に向けて進んでいるプロジェクトにおいても、アドバイスを求められるケースが増えているといいます。
「大規模なプロジェクトの中でアーキテクチャに関する議論にも関わることができ、経験者として意見を出したり、アドバイスをしたりしています。将来的には、自社独自の制御方法を実装するのみならず、こうしたシステム開発に関するノウハウも活用して、他社との差別化につなげていけたらと考えています」(原田氏)

多くの人が使いやすくなるよう連携機器の拡張などの機能強化を進める

さまざまな用途で活用の始まったhammock EMSですが、今後はより多くの人が使いやすくなるよう、対応機器の拡張、データ取得に向けたAPI開発、用途に応じたダッシュボード開発などを進めていく予定です。
「例えば、秒単位のデータを一定間隔で自動的に集計して膨大なデータをハンドリングしやすくなる機能や、取得したデータを分析して機器の故障を予知する機能など、ニーズに即した強化を進めていきます」(原田氏)

BeeXについては、豊富な知識を持ち、新しい技術にも尻込みすることなくチャレンジする姿勢を高く評価。新たな技術の提供に期待を寄せています。原田氏は「プロジェクトを通してBeeXのスキルの高いエンジニアに出会えたことは幸運でした。今後とも末永い支援をお願いします」と語ってくれました。

次世代型エネルギー事業に取り組むENEOSは、BeeXの支援のもとさらなる研究を進め、低炭素・循環型社会の実現に貢献していくことでしょう。


インタビューにご協力いただいた方々

  • 中央技術研究所 先進技術研究所 低炭素技術グループ チーフスタッフ
    原田 耕佑 氏

ENEOS株式会社

ENEOSグループの主要事業会社であるENEOSは、国内燃料油販売シェア、系列給油所数シェア、原油処理能力はいずれも国内1位(2021年3月末現在)。また、2014年12月にはトヨタ自動車の量産型燃料電池自動車「MIRAI」の発売開始に合わせ、水素ステーションの営業をスタートさせました。現在では4大都市圏を中心に47カ所の水素ステーションを展開するなど、次世代型エネルギー事業にも積極的に取り組んでいます。

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