S/4HANA移行シナリオにおける”Greenfield”、”Brownfield”とは

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S/4HANA移行シナリオにおける”Greenfield”、”Brownfield”とは

目次

海外のS/4HANA移行事例で、しばしば見かける “Greenfield”と”Brownfield”という用語。用語の使い方としては「うちは”Greenfield”でS/4HANAに移行する予定です。」とかですが、今回は用語が指す意味をしっかりと掘り下げてみました。

用語の出自

社会インフラの世界で使われていたようで、今では一般的なITプロジェクトでも使われていますが、下記の説明がわかりやすいです。
“Green Field”には、今まで建物や工場などが建ったことがない草ぼうぼうの土地、樹木が生えていて整地しなければならない土地という意味合いがあります。
“Brown Field”とは、現在、工場などの建物が建っている土地に、新たに設備投資をして新しい工場を建設したり、既存設備を刷新したりする際に、その土地を「すでに手がついている」という意味合いで表現するための言葉です。
これだけみると、S/4HANAとの関連がわかりにくいですよね。
出典:インフラ投資の基本用語:グリーンフィールドとブラウンフィールド

S/4HANA移行シナリオにおける “Greenfield”、”Brownfield”とは

SAPの世界における言葉の使い方については、SAP社のBlogでわかりやすい記事がありましたので、そちらをベースに、弊社のほうで補足しながらこの後解説していきます。
How to decide between a Greenfield and Brownfield S/4HANA transition

S/4HANA移行における2つの選択肢

Greenfieldとは

S/4HANAを新規でスクラッチ導入し、そこに既存データをマイグレーションする方法。

Brownfieldとは

既存ECC環境上にある全てのカスタマイズ及びデータを移行(Transition)する方法。

BASIS観点での比較

手法GreenfieldBrownfield
概要「作り直し」とか「新規構築」と呼ばれる世界で、トランザクションデータは基本的にS/4HANAに持っていかず、マスタデータのみ移行するイメージ。会計システムでいう残高移行に相当し、移行後も過去データ参照のために現行環境は塩漬けすることになる。

テクニカル移行と呼ばれる世界でコンバージョンに相当。以前からのマイグレーション、アップグレードに近い。(*注)

ただし、S/4HANA化はOSやDBだけの変更に留まらず、実装アーキテクチャやテーブル構造も変化するため、プログラム修正を伴う。

データ移行ツールS/4HANA Migration Cockpit

・DMO with SUM

・SAP SLO

上記2方式のどちらを採用するかを決定するにあたって、主な技術検討要件として下記があります。

データ品質 / Unicode / Archive

S/4HANAに移行する際には、データが大きな問題になります。

Unicode

まずS/4HANAはUnicodeのみをサポートしています。
ECCシステムが複数のコードページ(MDMP)の場合、Unicode変換を移行に含める必要があります。技術的には、SAP S/4HANA移行ツール(SUM DMOオプション)がこの変換をサポートしていますが、より重要なこととして、コード変換時のボキャブラリ(言語識別用の辞書データ)と変換ロジックを提供しなければなりません。

アーカイブ

S/4HANA移行時の再編成と列ストア圧縮では、データ使用量が大幅に縮小されますが、メモリとディスク容量の価格差が大きいため、関連データのみをメモリ内に取り込むことが重要です。
したがって、S/4HANAテクニカル移行の前にデータ保持方針を策定するか、データ移行作業の中に統合する必要があります。(ここでいうデータ保持方針の実体ですが、データアーカイブによるメモリ上のデータ削減以外に、データのData Agingにより、アクセス頻度の低いデータをメモリではなく、ディスク上保持することも、今後検討の余地があるかと思います。)

データ品質

S/4HANA化することで、データウェアハウス環境にデータロードすることなく、トランザクションデータを用いた最新状態でのレポートをリアルタイムで実行することができます。このことはもはや従来のETL手法のように「変換ステップ」が存在しないことを意味し、結果的に「データ品質」をシステム自身が備える必要があります。これを実現するには、2つのステップが必要です。(ここでいう変換ステップですが、取込データのクレンジング処理を含めて考えればしっくりきます。)

パッシブデータガバナンス

「データガバナンス」とはデータを企業資産と考え、汚れたデータによって生じている問題を、統制によって解決しようとする考え方のこと。
S/4HANAへの移行前またはデータ移行の一環として、データ基盤(根拠)を整理する必要があります。 その結果、より簡単に見つけたり、より実現可能なものがあれば、それによって意思決定を促進することになります。

アクティブデータガバナンス

データ基盤(根拠)を整理した後は、Greenfiled,Brownfieldの手法に問わず、データ基盤そのものをクリーンに保たなければいけません。

統合・インターフェイス

S/4HANAのようなリアルタイム環境では、バッチ処理されたデータに関するリアルタイム情報は有益ではないため、統合はこれまで以上に大きな違いをもたらします。 したがって、S/4HANAへのインターフェイス及びその先のインターフェイスは移行前に再確認するか、移行の一環としてリアルタイムベースで再実装する必要があります。

バージョン・パッチ

本項で記載されている内容は、S/4HANAの古いバージョンのため割愛します、最新バージョンを含めた最新の状況は下記記事が参考になります。
【寄稿】後悔しない「S/4HANA化を見据えた現行ERPシステムでの備え」とは(公開終了)

モディフィケーションとエンハンスメント(拡張)

適用済のモディフィケーション並びにエンハンスメント(拡張)がS/4HANAに準拠しているかを確認する必要があります。SAP社はそのためのツールを提供しており、詳細はこちらを参照してください。 Make the S/4HANA Custom Code Analyser work for you (内容的には、SAP Custom Code Analyzerによる修正手段の改善と自動化となりますが、本記事執筆時点もまだ進化中です。)
なお、価値のないカスタムコードが多い場合には、不要コード撤廃をふくめたマイグレーション(カスタムコードのS/4HANA化)、引き続き必要なエンハンスメント(拡張)については、S/4HANAに準拠した再実装が、さらなる簡素化(Simplification)のための機会となるかもしれません。

構成と機能

下記内容は、元記事の執筆が古いため、S/4HANA現行バージョンでは程度差があることを予めご了承願います。一般的な考慮事項としては、現在でも有効です。

S/4HANAは進化中であり、ECC 6.0で利用可能であった機能のすべてがS/4HANA、オンプレミスディション1511ではまだ利用可能ではないことにご注意ください。 SAP S/4HANA オンプレミスエディション1511の SAP  S/4HANA’s User Assistanceでどの機能がすでに使用可能になっているかを確認してください。

また、SAPや3rd Party製の特定業界向けソリューションやアドオンもS/4HANAに準拠しているわけではありません。 SAP製品の場合、SAP HANAの対応状況はPAMで確認できます。 サードパーティの場合は、それぞれのベンダーにお問い合わせください。
欠落している機能、非S/4HANA準拠の業界向けソリューションまたはアドオンは、もちろん移行を妨げることになりますが、別の方法でそれぞれの機能を提供できる場合は、移行できる可能性があります。

ユーザーエクスペリエンス/モビリティ

下記内容は、元記事の執筆が古いため、S/4HANA現行バージョンでは程度差があることを予めご了承願います。(一般的な考慮事項としては、現在でも有効です)

戦略的なS/4HANAユーザーインターフェースはFioriですが、SAP S/4HANAオンプレミスエディション1511では、スクリーンガイダンスを活用して、SAPGUI for HTMLでかなりのトランザクションがまだレンダリングされています。(=要はFiori化されず、SAPGUI for HTMLで画面が提供されているということ)
したがって、アプローチに関係なく、それらのUIテクノロジに精通し、Fioriの技術基盤を適切に確立することをお勧めします。
参考:SAP Fiori launchpad in SAP S/4HANA 概要紹介(2017/4)

サマリー

コード、データ、インテグレーションの観点でStreamlined(*注 )Systemの場合、又は容易に実現できそうな場合は、S/4HANAへのブラウンフィールドの移行が推奨されます。 既存システムに技術的な課題がたくさんある場合は、グリーンフィールドによる移行がより現実的な選択肢になり、きれいでSimpleな結果が得られます。
*:Streamlined
直訳としては「合理化された」ですが、意味合いとしては下記の通りです。
To improve the efficiency of a process, business or organization by simplifying or eliminating unnecessary steps, using modernizing techniques, or taking other approaches.
長文、最後までお読み頂きありがとうございました。

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